Special
After the rain  〜イギリス うじうじ修行旅  

                  
Stonehenge

21th JAN (TUE)

いよいよ、フルタイム動ける最後の日。
目的はひとつ、ストーンヘンジです。
ポーツマスから、国鉄で1時間くらいのソールズベリーという駅から、バスで20分くらいのところにあります。
外国で、地方から地方に行くなんて、ただでさえ乗り物&方向音痴の私にとっては「間違えずに行けたらラッキー」くらいのもの。
なるべく早く出るため、7時には身支度をしてホテルのレストランに朝食を食べにいきます。
それなりのホテルだし、ビジネス客が多いので、
髪をきゅっとしばり、仕事で来た東洋人ジャーナリスト風にしました(の、つもりでした)。

天国。
ヒルトンの朝食。
バイキング方式だったんですけど。
普通のトースト以外にも、クロワッサン、ライ麦パン、くるみパンなどが選べ
朝っぱらからデニッシュやお菓子までが並び
かりかりベーコン、半熟目玉焼き、ソーセージ、マッシュルーム、焼きトマト、ベイクドビーンズのフル・イングリッシュブレックファストのほか
色とりどりのカットフルーツに、ミルク、ヨーグルト、そして私の大好きなカッテージチーズ(チーズ好きだね、私)。
シリアル用のドライフルーツ。フルーツジュース。ぜんぶ取り放題。
コーヒーや紅茶は少なくなったらスタッフがとんできてくれます。
ああ、おいしい…。
会社員のときから、朝食だけはきっちり時間かけて食べてたタイプなので(コーヒーだってドリップしますよ)、
ようやく「自分ち」を超える朝食に出会えました(笑)。
食べ過ぎて動けなくなるのが恐ろしいくらいでした。万一おいしいものがあったら、食いだめしたい国、英国。
欲をいえば、ここにサラダか温野菜、
あと、納豆と海苔とごはんくださーい。

英国の「非常ベル頻発」について。

8時すぎにはホテルを出て、バスで港の駅へ。お天気はくもり。
通勤・通学と重なったらしく、けっこうな混雑。
みんな同じメンバーでバスに乗るのでしょう。声をかけあったりあいさつをしたりしています。
と、何か「ビー」という緊急ブザーのような音が鳴り、停車。
ほらほら。多いんですよ。こういうことが。
英国ではってことではないと思う。日本が少なすぎるだけ。
ほとんど石造りの建物なのに、執拗なほど防火扉を設けているし、
何か少しでも異常を察知すると非常ベル等が鳴りやすいというのは、つまり安全対策が行き届いてるってことなんでしょうね。
最初はいぶかしがっていた「英国の非常ベル頻発」ですが、気がつけば好ましく思うようになっていました。
結局原因はよくわからず、運転手はおそらく規定で勝手に発進させることもできない。
次のバスが来るまで20分ほど待ち、みんなでごそっと移動しました。
早く出てきてよかった。
 


イギリスの国鉄は、降りるとき切符を見せなくていいです。ポーツマスハーバー駅。

 

ソールズベリーまでは、往復で12ポンド。何だ安いなあ。ロンドンまではあんなに高いのに。
ちなみにこの「ソールズベリー」、つづりは"Salisbury"。普通読めませんよね?
イギリスでもっとも高い尖塔を持つ、「ソールズベリー大聖堂」で有名な古都。そして、もちろんストーンヘンジのおひざもとで有名な、小さな街です。
ポーツマスからソールズベリーまでは直通の電車があり、しかも終点がソールズベリーなので、表示を見ていれば乗り間違えようはありません。
ポーツマスからソールズベリーまでは、ロンドンからポーツマスへのうら寂れた景色にくらべると、
もうまさに「世界の車窓から」って感じ!!!!(←バカ) 
テーマソングをうたいだせば、カフェロジイのみなさんならのってくれるだろうなあ、と、くだらない空想をします。
人間なんかちっとも見えません。そこにあるのは馬、羊、猿、じゃなかったリス、ウサギ、犬。だだーっぴろい、緑の平原。まるで北海道です。


駅に降り立ち、まずホームでお昼ごはん用のサンドイッチとミネラルウオーターを購入。
だって、もう、時間のゆるすまでストーンヘンジにいたいんだもの。許されるなら眺めながらランチしますよ。
が、間違えてスパークリングの水を買ってしまう。ウェップ。
駅に併設された観光案内所に行って「ストーンヘンジ…」と言うなり、直通バスの時刻表を渡されバス停の場所を教えてくれる。
バスの時間まで街をきょろきょろ見回す。
ソールズベリーっていうか、もう、ストーンヘンジさえ見れればこの旅は万事OKってくらいだったのですが、
そびえたつ大聖堂の尖塔を遠くから眺めてるうちに、やっぱりあれも見たいな、っていう気になってきました。

 


ソールズベリー駅前から大聖堂を望む。すみません、ポジで撮ったものをプリントしたせいか、以降写真がちょっと暗いです。


ストーンヘンジが夢だった 

やってきたバスは、赤くないダブルデッカー。
「ゆりかもめは一番前じゃなきゃイヤ!」の私は、もちろん2階席の一番前に陣取ります。うひょー。絶景!
バスが走り出すと、私は、この旅ではじめての、心から、ほんっとに、子供みたいに、うれしい! たのしい! という気持ちになりました。
子供だったらピョンピョン飛び跳ねていたことでしょう。犬なら激しくしっぽをふっていたことでしょう。
私の実家から車でほど近く、石川県の河北潟というところは、まるでヨーロッパの平原みたいなところなんですが(気候もね)、
イメージだけで描いていたヨーロッパの平原に、ようやく出会えたのです。

そして、ストーンヘンジ。
ああ、ストーンヘンジ。何ゆえにこんなに惹かれてきたのでしょうか。
建造物としては、ピラミッドやアンコールワットやスフィンクスや万里の長城のほうがよっぽどすごいはずなのに。
たぶんその理由は、円形で、天体と深いつながりがるということ、
そして、あきらかに権力者が権力を誇示するために残されたものとされていないこと、
何よりそれが、砂漠でも森の中でもなく、緑の草原の上に建っているから、ではないかと思います。
太陽が雲間から見えかくれする、イギリスならではのミステリアスな空。
暦の役割を果たしている、円形の巨石群。
私の中の、隠された科学好きの"少年"が顔を出してしまうのです。


残念ながら、次第に激しい雨。外でランチどころではなさそう。
すでにおなかがすいていた私は、冬枯れの木々を眺めながらサンドイッチを食べはじめました。
バスはゆるい国道をすらすらと走ります。と、その時、
道のすぐわき、左側に、岩がつんであるのが見えました。
おお、きっと、徐々に大きいのが現れたりするのだな!
バスが止まり、案内された先にあったのは…

えっ、あのバスから見えた小さいのがストーンヘンジ?

がーん…。

いや、おそらく私の期待が過大すぎたのです。確かに大きいです。高いのは私の身長の数倍はあります。
が、やはり、東京とロンドンという大都会で大きいものを見なれすぎてしまったのでしょうか。
あれなら…つくれなくも、ないかな、という、サイズ。
しかも、夏至の日、この石の方向から日が登るとされる、聖なるヒールストーンときたら、
もー、すぐそこに金網があって、横をさっき来た国道が走っててくるまがびゅんびゅんいってんですよ!
きっと、ソールズベリー郊外に住んでる学生あたりは、
「あ、おれんちさあ、クルマでXX号線行くじゃん。左にストーンヘンジ見えるじゃん。そのつぎのY字路左行ってさあ」とか、超日常的な目印に使ってるはずだよ! ちきしょう!

せめて、鎌倉の大仏みたいに上手に隠してちょうだい!!!

 

まさに特等席。これも写真が暗い! これほど悪い天気じゃなかったです

 

「俗界、ストーンヘンジ」ってほどではないですが


外からでも見えるのに、入場料4ポンドくらい要ります。が、音声ガイドは無料です。
驚いたことに、この音声ガイドときたら、「英語、仏語、独語、日本語」って感じの品揃えなのです。
どんな観光地にもあらわれる日本人、おそるべし。
(帰国後このことをもりこ嬢に話したところ、「そんなところにわざわざ観光に行くのって、日本人かドイツ人くらいだよね…」
要するに、休みのときもがんばっちゃう国民というわけ。)
さてこのストーンヘンジ、4000年くらい前から雨ざらしで建ってるわけですから、保存第一。現在は、直接触れることはできません。
とはいえ、思ったより石の近くまで寄ることができました。
この音声ガイド、ひじょうに詳しいので、ぜんぶ聞きながら歩いていると、けっこう時間がかかります。
雨が激しくなってきました。町中よりやはり風も強く、私はイギリスに来てはじめて、心から寒い思いをしました。
同じようにガタガタふるえながら、リュックをしょってパーカーのフードをかぶり、ムービー片手にひとりでいる白人の女の子を見て、
同志よ、と思いました。

虹が出たなら


おお、光が。写真ではよくわかりませんが、一面羊だらけです。彼等は羊毛用? であってほしい

 


ああ、これもわかりづらい。左にぽこっとあるのが、ストーンヘンジの周囲に方向をあらわすものとして置かれた「ステーション・ストーン」のうちのひとつ。虹としてはあまりくっきりしてないけど、まん中に根元があるの、わかりますか?

たしかに、片側は国道です。ストーンヘンジを撮った写真が、たいていいつも同じ角度なのは、このせいだったのです。
が、やはりこの景色は素晴らしいものでした。
地平線が見えるくらいの広い空。ただでさえ変わりやすいイギリスの天気ですから、遠くには青空も見えます。
すぐそばの牧草地帯には、数えきれないほどの羊がのんびり放されています。
ほどなく雨は上がり、雲間から光がさしこんできました。聖書のようです。
やがて、濡れた草原が、きらきらと輝きだします。
見ると、ステーションストーンの向こうに、虹が、草原からにょきっと生えていたのです!
おそらく本当の地平線ではないでしょう。丘になっていたのだとは思うのですが、
極東からはるかユーラシア大陸を超えて訪れた西の果ての古代遺跡で、虹の根元を見るなんて、
これ以上、旅の神様にいったい何を望むことがあるでしょうか?

ストーンヘンジが建てられた当時、この地帯は草原ではなく、森の中であったといいます。
でも、こんな金目のものもないぶっきらぼうな石が、先進国・英国の、さほど奥地でもない場所で、
なぜ、文明につきものの破壊なくして、大切にされてきたのでしょうか。
それはおそらく、建てた以降のひとたちが、
石よりも、この風景にとりつかれてきたからなのではないかと思います。
そして、再三くりかえしますが、私の生まれ育ったのも、気候が不安定で、日照の乏しい土地。
これは、私が英国に強く惹かれる理由でもありますが、
日照時間の一番長い、夏至の日を最上の日としてストーンヘンジを建てた古代人の気持ちが、
私には、ほんの少し実感としてわかるような気がするのです。
だからきっと、ピラミッドより、スフィンクスより、惹かれるのだと思います。

世界はじめて物語

やはり身体が冷えてきました。おみやげ屋もふくめ、2時間くらいストーンヘンジにいたでしょうか。帰りのバスに乗り込みます。
また、雨がふってきました。外がよく見えないくらいです。
ソールズベリー駅前に戻り、尖塔の見える方向にぼちぼち歩き出しました。 

ちょっと歩いてるだけで、私はこのソールズベリーという街が好きになりました。
ポーツマスほど地方都市っぽくなく、必要なものと古いもの、そして、わりとおしゃれなものがキュッとつまった、本当にこぢんまりとした古都だったのです。プチ・バトーのお店まであるんですよ!
そして、街には用水のようにエイボン川がささやかに流れ、古くて小さな石橋がたくさんかかっているんです。
ここで見るとほんの小川のエイボン川ですが、ストーンヘンジの石は、この川を使って舟で運んだとのこと。
ロンドンは物価が高いから、イギリスに住むならここかな、なんて思いました。うむ。ここはイギリスの小京都。

これは尖塔じゃなくて、正面です


後からごてごて権力者を祭ったりしたあとがあまりないのが、この聖堂の魅力。ステンドグラスも素朴で美しいのです

 

まったく、イギリスという国は、「これ、何!?」というくらい立派な教会が、フツーの教会として街の中に存在している国ですが(そのわりに、さほど信仰心は篤くない)、ソールズベリー大聖堂の尖塔、高さ123m。大隈講堂は125尺(38m)といえば、その高さを想像していただけるかと思います。
広々した緑の庭をもつ、壮麗なのにどこかストイックで古めかしいイメージの聖堂です。
驚いたことに、質素ながらここでも日本語のパンフレットを発見。なんでも、日本人のガイドさんもいるとのことです。
多くの英国の歴史的建造物と違って、この大聖堂は、隅々まで見事に行き届いているのに、わりと短期間で完成したのだそう。そのせいか、観光資源のためのつぎはぎ感がとっても少なく、ここまで手のこんだ聖堂を建てた信仰心が、かなりストレートに伝わってきました。
さらに、ここにはヨーロッパ最古の時計や、大英博物館より保存状態のずっといい「マグナ・カルタ」まであるのです。これ、ストーンヘンジのおひざもとであることとは、無関係なのでしょうか?
面白かったのは、チャプター・ハウスの壁に彫ってある、天地創造やアダムとイブ、バベルの塔など、おなじみのレリーフ。中世の傑作と言われていますが、それは絵本のようにわかりやすく、末端の人たちにもよくわかる宗教の理想的な姿に思えました。 

なにやら写真を撮るのも気後れする、教会らしい雰囲気。が、意を決してカメラを取り出したらば。
な、ない。カメラじゃなくて、カメラのケース。
なあんだって言わないでください。私のカメラ、コニカの名作「BIG MINI」の限定黒バージョンで、可愛い革のケースつきだったのです。中野の中古屋で、とってもいいお買い物だったのです。うう、お気に入りのケース…。入る前に外観を撮ったときは、まだあったなあ。あの時落としちゃったのか…。
私は旅でいくつモノを落としたら気が済むんだろうなあ…。

パーフェクト・レインボウ

すべて見終わってから外に出ると、雨はあがり、すっかり青空になっていました。
と、屋根つきのかわいいダストボックスの上に、カメラケースが、ちょこんと置かれているではないですか! 
ああ、きっとこの街の人も、いい人が多いに違いない。そそくさとカメラケースを拾って帰ろうとした瞬間、
後ろを歩いていたご婦人が、「Rainbow!」と叫びました。
見ると、真っ青な空、緑の芝生の上に、ほとんど完璧とも思えるほどの大きな虹がかかっていました。

石の街は、ぽたぽたとしずくを垂らしながら、いっせいに輝きだしました。
冬の午後の、すこし弱い光。
エイボン川もきらきら輝き、おじいさんが橋の上から川面をながめ、子供のはしゃぐ声が聞こえます。
ソールズベリーは、私にとって忘れられない街になりました。

 

写真だと、あの輝きをうまくうつせなかったのが残念です。

 

--つづきを読む--

 

▲一番上へ
Specialメニューへ